つくり手インタビュー01|【クチュールカワムラ】縫製の道50年のベテランが支える、オブラブのガーゼパジャマ
生地の品質や国内での生産にこだわるオブラブのものづくり。商品づくりは糸や生地の製造から、それを染色、縫製する多くの企業さんのお陰で成り立っています。
そんな企業さんを紹介するインタビューの第1弾は、新たに商品ラインナップに加わったガーゼパジャマを縫製する「クチュールカワムラ」さん。パジャマづくりの裏側と、普段はオーダー服も手がける縫製の現場について、オブラブ代表の西澤がお話を伺いました。
お話を伺ったのは、クチュールカワムラ代表の川村さんと、川村さんの娘さんでデザイナーの吉村さん。そしてこの道50年のベテランで、オブラブのパジャマの縫製を担当いただいている金井さんです。
きっかけはパジャマづくりのワークショップ
2020年のオンライン・モノマチでオブラブは、オリジナルパジャマづくりのワークショップを実施しました。植物由来の染料で染めた三重ガーゼを使い、ロックミシンなしでも縫えるように縫い代の始末を袋縫いにしたりと工夫が詰まったパジャマです。
ゆったりきれいシルエット・ガーゼパジャマ
モノマチ以降、商品化を希望するお声をいただきましたが、扱いの難しいガーゼ生地でパジャマを商品化し、小ロットで生産することは容易ではなく、実現はしていませんでした。
ところが、その後「ぶらり途中下車の旅」というテレビ番組でオブラブのお店を紹介していただく機会があり、それを機にさらに問い合わせが届くようになり…その中には商品価値や価格の妥当性も理解してくださる方も多く、これは形にしなければとクチュールカワムラさんに縫製をご相談しました。
川村さん:以前、大人用のガーゼジレの縫製をご依頼いただいた経緯もあり、今回はパジャマの縫製をご相談いただいて。また今回、取材の機会もいただき嬉しく思います。私たち縫製業はものづくりの裏方、黒子であると思っていますが、やはりものづくりをしていると、丁寧につくられた背景を知ってもらいたい気持ちはありますからね。
西澤:そうですよね。ものづくりの裏側を見たことがない方は、衣類もベルトコンベアで流れて全自動でつくられている…と思う方もいるかもしれません。でも実際にはほとんどの作業が人の手で行われていて、想像以上に多くの工程を経てやっと商品になる。最終的には出来上がった「モノ」しか届けることができないけれど、少しでもものづくりの現場を知っていただけたらと思い、今回取材をお願いしました。
吉村さん:はじめてオブラブさんの多重織ガーゼ生地に触れたときは、本当に良い質感のガーゼだなと思いました。そして今回パジャマのお話を頂いて、素肌に触れて長い時間着用するものだからこそ、上質なガーゼでつくるのは良いなと。そのものづくりの背景をこうして記事にして伝えることも素晴らしいなと感じました。
西澤:そうですね。どんなに良いものをつくっても、知ってもらえなければ届けることができないので伝える努力は大切だなと。でもそれ以前に、いくら企画をしてもそれを形にできる方がいなければ机上の空論で終わってしまいます。今回のパジャマの件もそうですが、大きな縫製工場には頼めない小ロットの生産でさらにこだわったものとなると、お願いできる企業さんは国内でもかなり限られます。クチュールカワムラさんとのご縁と、こうしてお引き受けいただけたことには感謝しかありません…!
縫製ひと筋50年のベテラン金井さんの「働き方」
西澤:代表の川村さんと、縫製を担当いただいている金井さんとは、どのくらいのお付き合いなのですか?
川村さん:もう数十年来のお付き合いになりますが、70代になると多くの方がリタイアされるこの業界で今も現役で縫製を担当してくれている金井さんは、クチュールカワムラにとって大黒柱のような存在ですね。まさに、つくり手がいなければ形にならないこの業界において、長年の経験と確かな腕を持って要望に応えてくれる人は本当に貴重です。今は専門学校を卒業しても、服を縫えない方も多いので。中には結婚や出産を経て、勉強をし直して手に職をつけたいという若い方もいますが、そういう方も本当に貴重だと思います。
西澤:金井さんは縫製の仕事を手掛ける中で、どんな働き方をされてきたのですか?
金井さん:私は長野県出身なんですけど、学校を出て洋裁店で働きながら学び、縫製を仕事にしてきました。縫製の仕事自体が性に合っていたこともありますが、私は昔から家族との時間を大切にしながら働きたかったので、「家でできる」ことも私に合っていたのかなと思います。
西澤:今でこそ、在宅ワークが当たり前の選択肢のひとつになってきましたが、当時からその働き方を意識されていたなんて、先進的ですね…! いつも、どれくらいのペースで縫製のお仕事をされているのですか?
金井さん:大体、朝起きて掃除や洗濯を終えたら午前中から仕事に取り掛かって夕方の4時くらいまでは集中して作業を進めますね。大変な作業も多いですが、仕事をしていると悩みも忘れて集中できるのが性に合っていて。一時期目がかなり悪くなってしまったときは、もう辞めどきかとも思いましたが、手術をしてまた見えるようになって、一番嬉しかったのはこの仕事を続けられるということでした。手術からのリハビリ療養期間も含め、自由に働かせていただけているのは、クチュールカワムラのお陰だなと思っています。
川村さん:多くの方が年齢と共に独立してアトリエを持ったり、ある程度の年齢になるとリタイアしていく中で、金井さんのような方は本当に貴重です。だからこそ、クチュールカワムラがあるのは金井さんのお陰です。本当に何でもできる方なのでついあれもこれもと頼ってしまって。吉村がデザインしたオリジナルのつなぎなんかも、縫製は金井さんが担当しました。
吉村さん:このつなぎは凝ったつくりにしてしまって本当に苦労させてしまいました…! でも本当に丁寧に仕上げてもらって、若い方が着ると素敵で。製品化してほしいという声もよくいただく1着です。
川村:色々とお願いして頼ってしまいますが、可能な限りまだまだ縫製を続けたいと言ってくれているので、お互いに無理のないように仕事を続けられたらと思っています。
西澤:無理のない、持続できる働き方はとても大切ですよね。オブラブも、「無理のないものづくりの流れ」を普段からとても意識しています。必要なものを、必要な量つくり、必要としている人に届けたいという強い想いがあります。
クチュールカワムラのこれまで
西澤:クチュールカワムラさんは元々はフルオーダーのお店だったのですよね? 昔と今とで、お仕事の内容はどのように変わってきたのですか?
川村さん:実は、元々私はクチュールカワムラのパタンナーとして勤めていたのですが、先代のオーナーが急逝したことをきっかけに、店を引き継ぐことに。当時は依頼が溢れかえっていてなんとか仕事を回さなければならない中、地の利もあり、お客様の顔もわかるという理由で、急遽私が代表を勤めることになったのです。当時は残された仕事だけを納めたら終わりにするつもりでしたが、気づけば29年。埼玉県内に限らず、県外や都内にも長いお付き合いのお客様がいて、口コミで広がったご縁で続けさせていただいております。
吉村さん:昔は完全にオーダー服専門の店だったので、今と違って店内は仕立て前の生地だらけでした。ビジネススーツやオーケストラの衣装なども手がけていましたが、時代と共にお店もスタイルを変えて、金井さんには服以外にもバッグなども縫製をお願いしています。
西澤さん:昔は既成品の服よりもオーダー服をつくられることの方が多かったのでしょうか?
金井さん:50年も前になると、オーダー服を仕立てることの方が多かったですね。
川村さん:40年ほど前は既製品の服もあったけれど、お客様でも議員さんなど人前に出て見られる仕事の方はよくオーダー服を着られていました。また、私にとっては当時既成服の中に着たいと思えるデザインがなく、「映画で見るような素敵な服はどこにも売っていないから自分でつくろう」と神田に生地を買いに行って見よう見真似でつくったりしていましたね。
吉村さん:私も幼い頃、母が仕立ててくれた服をよく着ていましたが、服をつくることが身近な環境で育ったこともあり、自然に服づくりに興味を持ちました。たまたまですが、母と同じ洋裁学校を出てこうして一緒にクチュールカワムラで仕事をしているのも面白い縁ですよね。
オブラブのパジャマづくり
西澤:オブラブのパジャマはワークショップのデザインの時点から、9号〜13号までを1サイズで着られるゆったりとしたデザインにしていました。製品化する際も、小ロット生産ということもあり1サイズで展開をしようと考えましたが、そうするとウエストゴムの長さがネックになってきて。ワークショップでは各自自分に合った長さにゴムを裁断して貰えばよかったのですが、製品版ではそうはいきません。そこで吉村さんにご提案いただいたのが、ウエストゴムにサイズ調整のスナップをつけるというアイディアでした。
吉村さん:ご相談いただいて色々と試行錯誤した結果、スナップ仕様に落ち着きましたね。無事製品化できてよかったです。
西澤:依頼内容を形にするだけでなく、課題に一緒に向き合ってくださってご提案いただいて、本当に助かりました! 金井さんに縫製いただく段階では、大変だったポイントなどありますか?
金井さん:ガーゼは裁断した部分から生地がほつれやすくて、埃がでやすかったですね。また、とても柔らかいので引っ張るとすぐに縫い目がヨレてしまって、縫うのにもコツがいる生地でした。
川村さん:簡単そうに言いますが、縫いやすいとは言えない生地を扱うのにはかなりの経験と腕が必要です。あっという間にコツを掴んでしまうのはベテランの金井さんだからこそ。それでいて、本縫いの前のしつけの時点では絶対に縫い目がずれないように丁寧に糸印を付けたり、金井さんの仕事は本当に丁寧で妥協がありません。
西澤:本当に、金井さんに縫製をお願いできてありがたいなと思います…! 私自身、ワークショップで実際に生地を裁断してみると本当に難しいし、大きな生地ほど扱いが大変で苦労しました。つくり手の方達の経験と技術の素晴らしさを実感しました。ワークショップでは、オブラブの生地の良さやものづくりの楽しさと同時に、難しさや手間もお客様に感じてもらえる機会になったのではと思っています。
価値あるものを、必要とする人に届けること
川村さん:オブラブさんでは、パジャマをはじめガーゼ商品をどのような販路で販売しているのですか?
西澤:オブラブの商品は、浅草橋の店舗での販売と自社オンラインショップ、楽天やYahooショッピングが主な販路です。情報発信はInstagramやLINEのお友達登録からもしていますが、実はオブラブのLINE登録者には50代以降のお客様が多いのです。電話での問い合わせも多く、まだネットがメインの購買ツールではない方もかなりいるのだなと感じています。デジタルでの発信は不可欠だけれど、完全にアナログを排除してよいというわけでもないのだと思います。自分達のファンでいてくれる方達のことをよく見て適切な手段を用意し、コミュニケーションを取ることが大切だなと思っています。
吉村さん:私たちも、どちらも大切だなと感じています。クチュールカワムラは小さい店ですが、ネット配信をするとすぐに電話で問い合わせがあったり、「あの商品がほしい」とお店に飛んできてくれる方も。店頭ではPayPayの使い方が分からない方がいると、一緒にコンビニに行ってチャージの仕方を教えたりもします…! 「WEBにあるから自分で見て」ではなく、どちらの手段を使っていてもファンでいてくださる方達を大切にしていきたいですよね。
西澤:新しい情報発信のツールは次から次へと出てきますし、その全てを使いこなすことはできないけれど、得意なものから、できそうなものからまずはやってみることが大事ですよね。多くのつくり手さんに支えられながら、こだわってつくったものだからこそ、それを伝えることも大切にしていきたいです。また商品だけでなく、支えてくださる企業さんのことも紹介したいし、ものづくりの過程を知ることで一層価値や魅力を感じて商品を使ってもらいたいと思っています。
今回はその第1弾としてお話いただき、ありがとうございました!
ライティング・撮影|小泉優奈
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